「核=原子力」発電の問題点を
あらためて問う
2010.2.27(土)14:00~16:30(開場13:30~)
武蔵大学江古田キャンパス 8号館 8603教室
■主 催:核・原子力のない未来をめざす市民集会実行委員会
■プログラム
<講演14:00~15:30>
「核=原子力」発電の問題点をあらためて問う
小出裕章さん/京都大学原子炉実験所助教
<緊急報告 15:30~15:50>
今、上関で何が起きているか
澤井正子さん/原子力資料情報室
<質疑応答 15:50~16:30>
*賛同団体によるブースにお立ち寄りください。資料等はご自由にお持ち帰りください。
講師プロフィール●小出裕章(こいで・ひろあき)/京都大学原子炉実験所助教。1949年東京生まれ。東北大学原子核工学科卒、同大学院修了。原子力の「平和」利用に夢を抱き原子核工学を専攻するが、大学闘争や女川原子力発電所建設反対運動に接する中で、核=原子力が差別の上にしか成り立たないことを知る。以降、原子力を廃絶させることを自らの課題とする。専門は放射線計測、原子力安全。伊方原発訴訟住民側証人。人形峠ウラン残土訴訟で住民側に立ち、地裁・高裁あわせて8通の意見書を提出。著書に「放射能汚染の現実を超えて」(北斗出版1992)、「原子力と共存できるか」(かもがわ出版1997)、「人形峠ウラン鉱害裁判-核のゴミの後始末を求めて」(批評社2001)など。1987年から年度版百科事典「イミダス」の原子力の章を執筆。
■2月27日に開催の「核・原子力のない未来をめざす市民集会@練馬」は、約180人の参加者にお集まりいただき、終了しました。
「『核=原子力』発電の問題点をあらためて問う」と題した講演で、小出裕章さんは、▲放射線エネルギーの巨大さと被曝の危険▲破綻した核燃料サイクル政策と高速増殖炉▲プルサーマル計画と使用済みMOX燃料の行方▲そもそも、原発がCO2を出さないってホント?!――などのテーマについてわかりやすく話され、核と原子力が同じものであること、無毒化する技術を持たないまま、原発が絶えず生み出し続ける放射性廃(棄)物の問題について言及。加えて、1986年4月26日、旧ソ連チェルノブイリ原発で起きた事故を振り返り、原子力発電所が一度事故を起こせば全地球汚染・被曝を免れないこと、今日、国策として進められている原子力利用においては、原発はカネと引き換えに過疎地に押し付けられており、利益を受ける集団と危険を押し付けられる集団が乖離していて、被曝の危険と「許容量」は「がまんさせられ量」になっていること、自分に加えられる危害を容認できるか、謂われのない危害を他者に加えることを見過ごすかはどこかの専門家が決めるのではないし、国に任せていい問題でもない、と結ばれました。
ゲストスピーカーとしてお迎えした澤井正子さん(原子力資料情報室)からは、山口県上関町に建設が予定されている「上関原子力発電所」阻止行動について、また予定地が瀬戸内海に残された生物多様性のホットスポットであることなどが報告されました。
今回の市民集会を機に、引き続き国の原子力政策の行方を注視し、原発から脱し、核・原子力のない未来社会の構築をめざしたいと思います。予想を超える賛同個人・団体に集まっていただき余剰金がありましたので、上関原子力発電所計画阻止行動に携わる、「上関原発を建てさせない祝島島民の会」「虹のカヤック隊」「長島の自然を守る会」の3団体に寄付させていただきました。ありがとうございました。
*この日の会場は武蔵大学江古田キャンパス。市民集会賛同団体の一つ、「環境まちづくりNPOエコメッセ練馬」が同校舎屋上に設置した太陽光発電パネル、「練馬元気力発電所1号機」をみることができる会場となった。
■小出裕章さん、澤井正子さんへの質問と回答を、掲載します。
Q.日本が東南アジアやその他の国に原発を輸出しようとしている(CO2削減を売りにして、また排出権などの獲得もあり)現状を憂えている。日本の一市民として、これを阻止する方法はないのだろうか? 莫大なお金と政府の方針・応援により、無力な市民ができることは?
小出●申し訳ありませんが、もしその方法を私が知っていれば、私がやります。しかし、集会の最後に賢治さんの文章を引いてお伝えしたように、それぞれの人が個性の優れる方面において、止むなき表現をすれば、止められる希望はあると思います。
澤井●日本の原発メーカーがアジアへ売り込みに行くのは、国内でもう沢山は売れないという現状があります。しかしご指摘のとおり、CO2対策として原発を売り込もうというメーカーの思惑と連動して、民主党政権は、2020年までにCO2を25%削減するという「温暖化基本法案」を閣議決定(3/12)しました。したがって、このような政治の流れを止めることが一つの大きな視点です。そのためには、例えば、地元選出の国会議員、民主党の議員(都議会、区議会)に対して働きかけることが必要でしょう。一方このような議員を選んでいる地元(たとえば練馬)で、「原発は温暖化対策にならない」ということを、身近な友人たちと勉強したり、人が集まる機会にアピールすることもできるのではなでしょうか。また自分の生活をまず点検してみることも必要でしょう。日本の中で、「原発いらない!」という声が強くなれば、アジアの人々にも伝わります。それが原発を導入しようという動きをストップする力になること願っています。いきなり政治の流れを大きく転換することは、むずかしいと思います。小さなアクションから始めましょう! しかし決して、後戻りしない積み重ねが重要だと思います。
Q.二酸化炭素(CO2)をだすメカニズムと、そのことに対し、原発推進派はこれまでどう反論しているか? 原発からの排熱を、温暖化に対しどのようにカウントしているのか?
小出●現在の温暖化の議論は二酸化炭素など温室効果ガスによる効果に限られており、直接の排熱に対する評価はありません。また、原子力推進派による原子力が出す二酸化炭素の評価については当日の配布資料にも書きましたように、彼らの都合のいいシナリオに基づいています。
澤井●電力会社が宣伝しているように、「原発は“発電時”にはCO2を出さない」ので、あって、発電以外の部分は、核燃料の輸送、製造、廃棄物の管理や処理に膨大な石油、電気を消費し、結局相当量のCO2を出しています(当日の小出さんの資料参照)。公式の統計では、発電の廃熱は温暖化にカウントされていません。内容的に議論がありますが、廃熱による海の温度上昇は問題とするべきと考えます。また、温度上昇による海からのCO2放出も問題とするべきという指摘もあります。
Q.原発は、放射性物質の危険性や地震に対するぜい弱性もさることながら、時間的、経済的に見合わないとする意見がアメリカやドイツで見られますが、どう思われますか? 原発に頼らない施策として、エネルギーを減らす省エネルギーとCO2を出さない自然エネルギーの導入が不可欠と考えますが、アメリカで進められている「スマートグリッド」について有効な施策と思われますか?
小出●原子力はいかなる尺度に照らしても、見合わないと私は思います。スマートグリッドはもちろん有効です。特に小規模分散型の電源を活かすためには必須の技術です
澤井●原発は、資本主義的な経済活動の原則から考えれば、時間的(廃棄物対策に数百年~)、経済的(利益も大きいが、膨大な投資が必要:例えば上関原発は2基で8000億円)に、リスクが大きすぎる発電所です。もし大事故があれば、計算できないような経費がかかります。東京電力では、柏崎刈羽原発が地震に襲われたため、7基の原発が約2年間完全に停止し、今でも5基は停止状態で、いつ運転再開できるか不明の状態です。そのために、東京電力は休止していた火力発電(石油、石炭)を立ち上げ、燃料費のために初めて赤字決算に陥りました。原発は、安定的電源にはなり得ません。原発を減らし、再生可能エネルギーを増やすことは絶対に必要で、そのためにスマートグリッドを整備することは歓迎されることと思います。ただ、そのための結局膨大な資本投資が必要で、その辺のメリット、デメリットをきちんと検討する必要があると思います。
Q.六ヶ所の(事故)現状とこれからについて教えてください。
小出●ガラス固化体の製造は今後も困難を極めると思います。仮に無理に再稼働をさせたとしても、すぐにまたトラブルを起こして、停止すると私は思います。
澤井●六ヶ所再処理工場の試験運転は、最終段階で止まっています。高レベル放射性廃棄物をガラスとまぜて固化する作業がうまくいかないためです。また、この作業の中で様々な事故、トラブルを起こし、昨年1月には、ガラス固化体製造施設の中で、高レベル放射性廃棄物が約150リットル漏えいする事故を起こしています。これらの事故対策について、日本原燃は2010年10月までに予定の作業をすべて終了し、本格稼働に移行するとしていますが、現在でも約3カ月分の工程の遅延があり、事実上今年中に稼働を開始することは困難と思います。
Q.国は「原発だけだとウラン鉱の5%しか利用出来ないが、再処理すると95%まで利用出来る」としているが、本当ですか?
小出●講演でもお答えしましたが、天然のウランのうち核分裂性のウラン(U-235)は0.7%しかありません。一方、天然ウランのうち99.3%を占める非核分裂性(U-238)は原子炉内で中性子を受けると核分裂性のPu-239に変わります。そのPu-239も中性子を受けると非核分裂性のプルトニウム(Pu-240)に変わってしまいます。原子力推進派の主張によれば、彼らの思惑通り、完璧に再処理が進み、Pu-239を利用できるようになると、U-235だけに比べて60倍の資源量になると言われています。
Q.ペレットはどこで誰が作っているのですか。その方々の健康状態は。運んでいる時の雨が当った時の蒸気の危険性はどうなのですか。
小出●ペレットは燃料加工工場で作っています。日本にある燃料加工工場は以下の通りです。ペレット製造工場で扱うのは低濃縮ウランです。MOX燃料を扱うようになれば、プルトニウムはウランに比べて10万倍も危険が高いため、作業はすべて自動化するしかありません。しかし、ウランの場合、半減期が著しく長く、逆に言うと放射能が低いため、もちろん作業服などは着て、マスクもしていますが、ペレットに手で触ることもできます。吸入すれば、それなりの被曝をしますので作業に注意も必要です。実際にどの程度の被曝をしているかについては、もちろん報告されるはずで、時々事故で被ばくをしたとの報道もあります。でも、基本的には原子力発電所での被ばくに比べればはるかに少ないはずです。 集会でお見せしたスライドで蒸気が立っていたのは、フランスから高レベル放射性廃棄物輸送容器が六ケ所村に返還されてきた時のものです。容器内の廃物が熱を発生するため、容器全体が熱くなっていて、それに雨が降りかかって蒸気になったものです。蒸気自体は雨が蒸発したものですから特別な危険はありません。
Q.祝島のこと、民主党は調査とか、見直しとか考えているのでしょうか。
澤井●民主党のマニフェストでも、原子力発電は「安全を確認しつつ推進」と明記しており、上関原発計画に見直しなどを検討しているという情報はありません。
Q.友人から数ケ月前に、「週刊文春」(だったと思います)に、青森県が、日本の中でガンの死亡率No.1という結果が出た、と書いてあったと教えてくれました。その原因などについて、把握していらっしゃる事はありますでしょうか?
小出●疫学的なデータは、常に不確かさが付きまといます。原爆被爆者にがんや白血病が多いというデータも、10万人もの被爆者を何十年にもわたって調査した結果、ようやくわかってきたことです。私自身は、青森県ががんの死亡率No.1であるかどうか知りませんが、仮に今現在そういうデータがあったとしても、その原因を特定することは大変難しいと思います。
Q.国は将来の四国地方での電力確保に上関原発が必要といっていますが、それは確実なデータから言っているのですか?
澤井●中国電力は、現在でも余剰電力を他の電力会社に売電しており、上関原発は必要な状態ではありません。しかし中国電力は、オール電化の推進などで今後需要が増えるという予測をたて、建設の理由としています。
Q.再処理工場で、プルトニウムを取り出す為に陶器を溶かす時、硝酸に熱を加えてとおっしゃいましたが、その熱源は何でしょうか。どのくらいのエネルギーが必要なのでしょうか? そのようなことを含めて、原発はCO2を出さないと言いきれるのでしょうか?
小出●再処理工場は原爆を作るための中心工場であるため、高度の機密に守られています。 燃料ペレットは溶解槽という容器で溶かされますが、私はその熱源を知りません。しかし、再処理工場全体が爆発性の物質を使用する化学工場ですので、ガスなどを熱源に使っているはずはないと思います。安全面から考えれば、おそらく電気を熱源にしていると思います。エネルギーの量についても情報がありませんが、たとえば、推進派による二酸化炭素放出量の評価では、ウラン濃縮の作業による寄与が6割から7割の割合を占め、再処理などは微々たるものとしか評価されていませんので、それほど大量なエネルギーを使うわけではないのだと思います。
Q.上関原発建設中止を求める活動をしています。この2日間、国会議員へのロビイングを行いました。建設予定地の素晴らしい自然環境を壊して良いのかという点に絞り話をし、関心をもってもらおうとしてきました。原発の有無を論じない方法をとり、ともかく田ノ浦湾の埋め立てをさせてはならないと話しましたが、本日のお話を聞き、この方法に迷いが生じてしまいそうです。小出先生はこれまで院内集会で議員向けに本日のような話をされたことがありますか。あったとしたら、その反応、参加議員の集まりはどの様でしたでしょうか。
小出●原発を止めるためには多様な取り組みが必要ですので、どの方法が一番いいかはわかりません。でも、私であれば、自然環境を壊すか壊さないかにかかわらず、原子力を認めたくありませんので、正面から原子力廃絶の議論をしようと思います。また、私は院内集会に呼ばれたことはありません。個人的なことを言って申し訳ありませんが、私は政治や組織は大嫌いですので、喜んでいきたいとは思いませんが、もしそのような機会を与えられるのであれば、お伺いします。
Q.放射能はどうして存在していたのか(私の素朴な疑問)。100年前の研究者により発見されなかった方がよかったように思ってしまうのですが、研究者としてどのように思っていらっしゃるのですか。
小出●宇宙の成立はビッグバンだという説が有力です。そのビッグバンでは陽子と中性子が多様に組み合わさった原子核ができたはずですが、安定的に存在できる原子核は陽子と中性子が特定の個数ずつ組み合わさったものだけです。それ以外の原子核はいずれにしても不安定で、原子核崩壊を起こして別の原子核に変わっていきます。そのスピードが速い原子核もあれば、遅い原子核もあります。たとえば、非核分裂性のウラン(U-238)が原子核崩壊するスピードは遅く、45億年たつと半分になります。地球は46億年の寿命を持っていると考えられており、地球が生まれた時に地球上に存在していたU-238は今日までに約半分が別の原子核(鉛206という原子核です)に変わり、約半分が今でも地球上に残っていることになります。放射能など見つからなかった方がいいとは思います。しかし、100年前に見つけなくても、科学はいずれ見つけたでしょう。問題は、その科学を使いこなすほどに人間が賢くないということでしょう。
Q.体内の分子結合エネルギー数eVより大きな放射線のエネルギーを受けた場合、体内では何が起きるのでしょうか? 細胞レベルと分子レベルで。
放射線によごされたゴミや水に触れた人・生物は、あるいは口より取り込んだ人は、いわゆる“被曝”といえるのでしょうか? “被曝した”という状態は何をもって判断されるのでしょうか? 地球被曝という事が良くわかりましたが、人間への具体的な影響、どんな病気の拡がりとなって現れているのでしょうか?
小出●放射線は、電離放射線と非電離放射線に大別されます。非電離放射線とはいわゆる電磁波のことで、最近ようやくその危険性が問題にされるようになりました。普通放射線という場合には電離放射線をさします。つまり物質を「電離(イオン化)」するということで、分子結合を切断することを意味します。切断された分子結合が遺伝子のものであれば、直接的に影響が生じますし、たとえば水の分子であったりすれば、水素イオン、水酸イオンなどが、周辺の分子とどのような反応を起こすかで影響が変わります。被曝とは放射線を浴びることを示します。したがって放射性物質を体内に取り込んだりすれば、もちろん被曝です。ただし、天然にも放射性物質は存在していますので、人間を含めた生物は常に被曝をしているともいえます。大量の被曝は、死、火傷、嘔吐、下痢など様々な急性障害を生みます。急性障害が出ない程度の微量な被曝の場合には、がん、白血病、遺伝的障害など晩発的障害と呼ばれる障害が生まれます。
Q.イタイイタイ病や水俣病が生物濃縮によって生物体内に蓄積されたことを考えると、放射性物質もたとえ微量であっても、この生物濃縮の過程を通して体内に蓄積されるといえるでしょうか。
小出●もちろん、言えます。
Q.妊婦の定期検診で、子宮内の子ども(胎児)の様子を写し出して、説明するようですが、どの程度の影響があるのでしょうか。当然のように行われていますが……
小出●申し訳ありませんが、妊婦の定期検診でどのような検査がなされているのか私は知りません。よくなされているのはエコーではないかと思いますが、それは超音波検査であり、放射ではありません。そのため、被曝もありません。ごく特殊な場合に透視という検査がなされるかもしれませんが、それは大量の被曝をします。もちろんしないに越したことはありませんので、透視検査をすると医師が言う場合にはそれが本当に必要かどうか十分の説明を受けるべきと思います。